皆さま、こんにちは。サンプランの荻原功太朗です。
今回は、宇都宮市内で不動産マーケットの現場で実際に起きている深刻な変化についてお話しします。
マンション業界の構造的危機が、皆さまの不動産資産価値に直接的な影響を与える時代が到来しています。
開発用地争奪戦の激化と撤退への分岐点
宇都宮市内でマンション開発が可能な土地は、もはや駅直結か徒歩5分圏内にほぼ限定されつつあります。
この極端な立地条件の絞り込みにより、開発用地の争奪戦が激化する一方で、多くのデベロッパーが宇都宮市場からの撤退を真剣に検討し始める段階に来ています。
これまで宇都宮市内の分譲マンション開発を支えてきたのは、中小規模のデベロッパーです。
市内の既存分譲マンションのほとんどが、地域密着型の中小デベロッパーによって手がけられてきました。
大手デベロッパーの開発案件は元々限定的で、宇都宮のマンション市場は他の地方都市同様に、中堅デベロッパーが主導する市場構造となっています。
建築費高騰が地方都市を直撃する理由
地方都市である宇都宮市が東京都心部よりも深刻な打撃を受けている理由は、分譲マンションの価格構造にあります。
具体的な数値で比較すると、東京都心部の1億円マンションでは土地代が約7000万円、建築費が約3000万円という構造になっています。
つまり土地代が価格の7割を占めるため、建築費が1000万円上昇しても販売価格は1億1000万円となり、上昇率は10%程度に収まります。
一方、宇都宮市の4000万円マンションでは土地代が約1000万円、建築費が約3000万円という構造です。
建物部分が価格の75%を占めるため、同じく建築費が1000万円上昇すると販売価格は5000万円となり、上昇率は25%にも達してしまいます。
この価格構造の違いにより、宇都宮市では建築費の上昇がそのまま販売価格に直結してしまいます。
鉄筋コンクリート造の建築費が坪単価120万円を超える現在、販売価格は5000万円を超える水準に達し、地方都市の購買力を大きく超える状況となっています。
さらに深刻なのは、販売価格が5000万円を超えると徒歩5分超えエリアでは販売が苦戦することです。
宇都宮市の購買層にとって、5000万円という価格帯は駅直結や徒歩3分以内といった超立地条件でなければ購入判断に至らない水準となっています。
これにより、開発可能エリアがさらに限定的になる悪循環が生まれています。
中小デベロッパーにとって、この建築費高騰は大手以上に深刻な問題です。
大手のような資金力やスケールメリットを活用できないため、建築費上昇の影響をより強く受けてしまいます。
富裕層のみが購入可能な新築マンション時代の到来
現在の建築費高騰と開発可能地の限定化により、新築分譲マンションは事実上、富裕層にしか手に入らない商品になりつつあります。
駅直結・徒歩5分圏内の限定的な立地で、建築費高騰を反映した価格設定となれば、販売価格は5000万円を超えることが確実となっています。
さらに問題なのは、販売価格が5000万円を超えるマンションでは、ロケーションが良くても徒歩5分超えエリアでは販売が鈍っていることです。
宇都宮市の一般的な購買層にとって、5000万円という価格帯は現実的に相当に無理をしないと買えない価格水準となっています。たとえ駅直結や徒歩3分以内といった超立地条件であっても、購入に踏み切れる層は極めて限定的です。
これにより、実質的に開発可能エリアが駅直結・徒歩3分圏内にまで狭まってしまう可能性があります。
世帯年収が、500万円台から600万円台の一般的な会社員世帯にとって、5000万円超の住宅ローンは現実的な選択肢ではありません。
金利上昇も考慮すれば、新築分譲マンションを購入できるのは年収1000万円以上の富裕層に限定される可能性が高まっています。
これは宇都宮市のような地方都市にとって極めて異常な事態です。
従来なら年収400万円台でも購入可能だった新築マンションが、今後は富裕層の専有物となる可能性があります。
中間層の住宅選択肢が根本的に変わる転換点を迎えているのです。
中小デベロッパーのビジネスモデル崩壊の危機
現在の状況は、中小デベロッパーのビジネスモデル自体が崩壊しそうな深刻な局面を迎えています。
地方都市の中小デベロッパーは、比較的安価な土地取得と適正な建築費により、4000万円以下での分譲マンション供給を前提とした事業モデルで成り立ってきました。
しかし、開発可能エリアが駅直結・徒歩5分圏内に限定され、かつ建築費が急騰した現在、このビジネスモデルが根本的に成立しなくなっています。
土地取得費と建築費の合計が、地方都市の購買力を大きく上回る水準に達してしまったためです。
従来なら「土地を安く取得して建築費を抑えれば利益が出る」という単純な構造でしたが、今では「どんなに効率化しても赤字」という状況に陥りつつあります。
これは一時的な調整ではなく、中小デベロッパーの事業モデルそのものの限界を示しています。
中小デベロッパーが撤退すれば、残るのは富裕層向けの高級マンションを開発する大手デベロッパーのみとなります。
結果として、新築マンション市場から中間層向けの商品が完全に消失する可能性があります。